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hr076
彼女は縄目に肌を染め、ファインダーの向こうでライトを浴びている。
私はポーズに注文を付けながら、思い出したようにシャッターを切る。
これが私の愛情表現だと言えば、私は変態と呼ばれるのだろうか。
貧国の幼女を食い物にする、薄汚い資本主義の豚だと呼ばれるのだろうか。
私も最初、年端のゆかぬ子供の緊縛写真を撮ることには抵抗があった。
しかし、これは他ならぬ彼女の要望だったのだ。

彼女は足の立たぬ母と、曾祖父と、二人の弟を食べさせてやらねばならない。
この国で、10代の少女にできる仕事はそう多くはない。
そう、悪名高い「その種」の仕事を除いては…。
だが、彼女は身体を売る商売には踏み切れなかったらしい。
敬謙な信者だというキリストの教えがそうさせるのかも知れない。
元貴族だという誇りがそうさせるのかも知れない。
いずれにせよ、裸体をカメラの前に晒すのは彼女にできる最大限の譲歩だった。
身体を汚さずに収入を得るには、それしか方法が無かったのだ。
そして幼女の緊縛写真が日本向けに高く売れると知ったとき、彼女は迷わず私に縛ってくれと依頼した。

彼女の父親は、日本に働きに出かけたまま帰ってこない。
あるとき、彼女は「父の帰りを待っている」と言ったことがある。
「父さんが帰ってくると信じているかい?」と訊ねたとき、彼女はただ微笑んだだけだった。
そして、私は自分の愚かさを恥じた。

…私はシャッターを切り続ける。
姿勢を変えさせ、脚を広げさせ、時に妖しげな器具を彼女の身体に当てがったりする。
だが、私は彼女に表情を要求しない。
媚びた笑いや、見え透いた喜悦の表情は彼女には無縁のものだ。
ファインダーの向こうから、彼女は独特の表情でこちらを見返している。
それは絶望のようでもあり…軽蔑のようでもあり…羞恥のようでもあり、
無表情のようでさえもある。
マニラ麻のロープが幼い身体に食い込む苦痛は相当なものの筈だが、
彼女はまるで聖女のように静謐な表情をたたえてファインダーの向こうにいる。

彼女の写真集を出すのは、これで4度目か5度目になるだろうか。
端正な顔つきと、清廉な素肌と、神秘的な表情に固定ファンも付いているようだ。
だが、それが必ずしも売り上げを意味するとは限らない。
しょせん、これは殆どの国において非合法の出版物なのだ。
発売直後にはコピー画像が世界を駆け巡り、売り上げは瞬く間にゼロまで落ちてしまう。
ただでさえ中間マージン搾取のひどいこの業界、私の手にはほんの僅かな金額しか戻って来ない。
私はその全額を彼女に渡している。
当初、私はそれを慈善であると考えていた。
だが、やがてそれが偽善に過ぎないことに気が付いた。
これは私の愛情表現なのだ。
愚かで歪んだ、醜く身勝手で薄汚い愛情の表現なのだ。

私は縄とカメラで彼女を愛してやることしかできない。
人は、私を不健全で身勝手で薄汚い変態だと罵るだろう。
しかし、ならば教えて欲しい。私は一体どうすれば良いのだろう?
彼女に金を渡すのか?彼女を嫁に娶るのか?彼女を養女として引き取るのか?
…それは彼女を幸せにするのだろうか?
彼女はこの国に生まれ、この国に育ち、この国で死ぬことを決意している。
私にできることは、ただ彼女に労働の機会を与えてやることだけだ。
その労働が多少奇妙なものであっても、互いに合意の上であれば良いのではないか?

…私はシャッターを切り続ける。
縛られた全裸の聖女が、ファインダーの向こうから私を見返している。
澄んだ湖のような、何もかも見通してしまうような色の瞳が見返している。

@A_g@Cu`bg