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hr154
それは弁論大会での出来事でした。順番を待っているうちに、段々おトイレに行きたくなったのです。
先生に何度か「あの…」と言いかけたのですが、すごく怖い目で睨まれただけでした。
私の順番は最後のほうです。一人が壇から降りると、また次の一人が上がってゆきます。
私はじっと耐えながら順番を待っています。生徒のスピーチはもどかしく、何度も詰まったり引っかかったりして、
まるでわざと私の順番を遅らせているようです。
やっと私の順番が来ました。封筒から原稿を出し、おぼつかない足取りで壇上に上がり、スピーチを始めようとすると…
原稿は真っ白でした。昨晩2時までかかって書いたのに…確かに、自分の手であの封筒に入れたのに!
「あ…えーと、あの…」
私がキョロキョロしながら戸惑っていると、先生から鋭い声が飛んできました。
「何をやっているんですか鈴原さん、スピーチを始めてください。」
「で、でも、あの、原稿が…」
「原稿は貴方が持っているでしょう?それとも、まさか何も書いてない訳じゃないでしょうね?」
先生の言葉に、全校生徒がくすくすと笑いました。でも、私にとっては冗談ではありません。まさか「はい、そうなんです」とは言えません…。
私は白紙の原稿を睨みながら必死に内容を思い出し、何とかスピーチを始めようとしました。

「…わ、私達の生きている時代は…全地球的に環境の、自然環境の大切さが認識されている時代です。
私達は、いえ、私達の地球の、地球の上に生きる生きもの達の…えーと、生きもの達は私達人類と、いえ人類の持つ文明の…」

だんだん、自分でも何を言っているのか判らなくなってきました。頭の中がだんだん真っ白になってゆきます…。
聴衆がザワザワしていることに気が付いたのは、どのくらい経ってからでしょうか。私のスピーチ、そんなに下手なんでしょうか。

「ちょっと、何あれ?」
「まさか、ウッソー?!」
「だってほら、どう見たって濡れてるよ…」

濡れてる?何が?そのときになって初めて、私は生暖かい液体が自分の脚をつたって流れていることに気が付いたのです。
「な、何これ…嫌だ、ちょっと、嘘でしょこれ…!!」
私は白紙の原稿を放り出して壇上にへたり込みました。でも一度流れだした尿意は止めようもなく、壇上にはっきりと水溜りを作ってゆきます…。
せめてスカートを引っ張って前を隠そうとしましたが、そのスカートもじっとり濡れています。
全校生徒のざわめきは、今や悲鳴のような驚愕に変わっていました。

「やだー、あの子ったら、ホントにオシッコ漏らしてるよ!」
「信じられな〜い!」
「バッカじゃない?赤ちゃんじゃあるまいし。」
「あの子、恥ずかしくてもうガッコに来れないよね…」
「学校に来んだったら、オムツ履いて来なきゃね。」

喧騒のなかに批難の言葉を聞きながら、私はなす術もなく壇上で固まっています…。

@A_g@Cu`bg