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hr278

「ふむ…面白い、実に面白いね。」
博士は観察ガラスを通し、被研体12号の状況を目視観察しながら呟いた。
「つまり、これが生殖行動なのかね。」
「おそらく。被研体を拘束している器官は、生殖腕でもあると思われます。」
「それが12号の胎内にも挿入されていると。」
「はい。ただ…『彼』にはヒトの生殖器が判らないらしく、全身の穴に挿入していますが。」
「フムン…あの分泌液は?」
「精液ではないようです。成分は分析中ですが…軽い麻酔作用と、性的な興奮を励起する作用があるようです。」
「面白い、面白いじゃないか!ヒトの生殖器を知らない生物が、ヒトの性的機能に作用する物質を分泌するとか!」
博士は眼鏡を掛け直してガラスの向こうを注視する。生殖腕は液を分泌しながら蠢き、被研体に巻きつきながら、更に少しづつ侵入を続けているようだ。
「もう、どれくらい経ったのかね?侵入深さは?」
「最初の接触から3時間になります。侵入深さは…口腔部は胃を貫通し幽門に至っています。生殖器においては生殖腕先端が子宮口に到達。肛門部では直腸を通過し大腸を遡上しつつあります、最深長は約90cm。」
「あの生殖腕というのはどこまで伸びるものかね?このまま侵入が続けば、口から入った腕と肛門から入った腕が小腸あたりで邂逅したりするんだろうか。」
「さぁ…『彼』の生体能力については未解明の部分が多すぎ、何とも言えません。ただ…被研体が、どこまで耐えられるか。」
「バイタルサインに異常は出ていないんだろう?気道も確保されている。よく生殖腕が肺の方へ行かなかったものだ、これも興味深い事実だな。」
「いえ、肉体の方ではなく、精神が保たないのではないかと…。」
「精神?!それがどうかしたかね。君は牛肉を食べるとき、屠殺される牛の精神に思いを馳せるのかい?」
「いえ、でも…宜しいのですか?被研体12号はその…博士の、お孫さんでは…。」
「ならばこそ、遠慮も何も要らないではないか。科学の、人類の飛躍にその身を持って貢献できるのだ、我が孫としてこれほどの栄誉があろうか。見るがいい、あの恍惚とした表情を…あの子もきっと、科学に身を捧げる栄光に酔いしれているのだよ…。」


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